PVBフィラメントってなに?
PLAやABSで良くない?
そう思ってた頃が筆者にもありました。
しかし、一度 PVBフィラメントを体感してみたらハマリました。
同じようにPVBフィラメントが気になっている方に、PVBフィラメントの良し悪しや向いている印刷物をご紹介します。
PVBフィラメントとは
そもそもPVBフィラメントをご存じない方のために、概要についてご紹介します。
特徴
上記のPrusaで紹介されている主な長所と短所は下記です。
長所
- 3D印刷の特性はPLAによく似ている
- フィラメントの透明性/半透明性に向いている
- 設計部品、花瓶、ランプシェードなどに最適
- IPA(アルコール)によって平滑化でき、透明になりやすい
- 優れた表面接着性
- 良好な粘り強さ(CPEに類似)
- 良好な引張強度(PETGに類似)
- 反りが少ない(PLAに類似)
- 太いノズルと相性が良い
- スパイラル(花瓶)モードと相性が良い
短所
- レイヤー間の接着性が悪い(PLAより若干悪い)
- 低温度の耐性が良くない
- 吸湿性が高い(水分を吸収する)
- 高価
- 機械部品に向いてない
向いている印刷物
Prusa社の記事では、次のようなものが推奨されています。
- 奇抜な花瓶、宝石、ランプ、その他のアート作品などのビジュアルモデル制作に適している。
- 透明なフィラメントを使ってプリントすべきモデルに適する。
使って見ると分かりますが、IPA(アルコール)で表面処理ができるので、表面をツルツルにしたいモデルであれば適するのではないでしょうか。
なお、今後もっと適切なモデルが編み出される可能性は十分ありますよね。
PVBフィラメントを手に入れるには?
筆者が初めて知ったのは、Prusa社で2020年末に発売されたこちらです。
透明6色で、かなりキレイで印象的なカラーのフィラメントです。
ただ、こちらで購入するのは500g単位ですし、輸入費用を併せると軽く5000円を超えます。
そのため、購入を躊躇して半年近く経ってしまいました。
そんな時、安価で高品質なフィラメントで定評のあるReprapper社から、PVBフィラメントが新たに販売が開始されました。Reprapper もつれのない PVB フィラメント 3D プリンター用Reprapper もつれのない PVB フィラメント 3D プリンター用

Prusa社と違って透明フィラメントはありませんが、半額以下でPVBフィラメントが手に入るのは魅力的ですよね。
なお、レッド/イエロー/ブラック/グレイ/ホワイトの五色です。
なお、Amazonでは他社のPVBフィラメントも販売されています。

[amazon asin=”B08PBWMCZ2″ title=”3Dプリンティングフィラメント1kg、PVB K5は研磨可能な改質フィラメント、研磨が容易でエタノール1.75mmに可溶-ブラック”]


ただ、ちょっと高額過ぎて手が出にくいです。あとは素性不明なメーカーのものだったり。
そのため、直近 日本で手に入れるならReprapper一択ですね。
PVBフィラメントを印刷してみた
PLAと同設定で印刷可能ということでしたが、自分の3Dプリンタ環境で違うというのは往々にしてあるのがこの世界です。
そのため、最適な設定を見つけておこうと温度設定による違いを試してみました。
ノズル温度を模索してみた
スパイラル(花瓶)モードとの相性が良いという素材ですから、同モードで筒状のサンプルを印刷してみることにしました。
スライサーでスライスする
まずは、PrusaSlicer でSTLデータをスライスしてみます。

フィラメントの設定は「Generic PLA」をコピーして、「Reprapper PVB – white」とフィラメントに合わせて別設定を作成しました。
前提条件のうち、デフォルトから変更した共通の設定はこちら。
設定タブ | 設定項目 | 設定値 |
---|---|---|
プリント 設定 | レイヤーと外周 > 積層ピッチ > 積層ピッチ | 0.2 mm |
プリント 設定 | レイヤーと外周 > 外壁設定 > スパイラル花瓶 | 有効 |
フィラメント 設定 | フィラメント > 温度 > Nozzle > 1番目のレイヤー | 200℃ |
フィラメント 設定 | フィラメント > 温度 > ベッド > 1番目のレイヤー | 60℃ |
フィラメント 設定 | フィラメント > 温度 > ベッド > 1番目のレイヤー | 60℃ |
そうして、ノズルの温度設定だけ変更した次の3パターンで印刷してみました。
パターン | ノズル温度 |
---|---|
A | 200℃ |
B | 190℃ |
C | 185℃ |
印刷結果
先の円筒を3paターンで印刷した結果がこちら。


一目瞭然でしたね。
パターン | ノズル温度 | |
---|---|---|
A | 200℃ | 焦げやヒゲがたくさん |
B | 190℃ | ヒゲたくさん |
C | 185℃ | 焦げヒゲなし |
コチラの結果を見る限り、ノズル温度は185℃に設定すれば問題がないように見えます。
ただし、低温度だと平面にムラができるようでした。底などは顕著でしたね。
これは「レイヤー間の接着性が悪い」という特性にピッタリ合っている点です。
そのため、出力量を増やすなどの調整をするか、焦げヒゲ上等で温度を上げるか、印刷するモデル次第で調整していく必要がありますね。
印刷したモデルで感じた特性
実際に印刷してみると、前評判よりも詳細な特性が分かってきました。
まず、弾力性(引張強度)はPLAよりは強く、ABS/PETGよりも弱い印象でした。
というのも、ここまで潰してみても割れることは無かったからです。

ただし、PETGやABSのような弾力(元に戻ろうとする力)の強さは感じませんでした。
また、割れることはありませんでしたが、力を加えると形が変形して元に戻らなくなる程度の強度でした。

この画像は目の錯覚では無く、潰れて楕円になって元に戻らなくなっています。
この特性を考えると、強い力がかかる部品には向かないことが分かります。
これも前評判通り「機械部品には向かない」という特性を裏付けた結果になったわけです。
実際のデータを印刷してみた
この結果を踏まえて、ノズル温度185℃のスパイラル(花瓶)モードを使って、次のモデルデータを印刷してみました。
https://www.instagram.com/p/CPYGTLoh6Fj/?utm_source=ig_web_copy_link作業用のトレイとして印刷しましたが、日常使いの箱として十分使えるレベルでした。
壁は薄いのに弾力があるので、少々では壊れなさげな安定感があります。
各メーカーが推奨しているように花瓶を印刷するのも良いですが、そんなに花を毎日活ける家庭ばかりではないでしょうから、もっと実用的なモノの印刷に使っていきたいところです。
ちなみに、今回のモデルは底が薄くて荒いので、水漏れするようでした。
これでは花瓶には向きませんから、太いノズルで分厚い壁に印刷するのが推奨されるのも納得ですね。
PVBフィラメントで表面処理をやってみた
このPVBフィラメントの大きな特徴の1つが、IPA(アルコール)で表面処理ができる点です。
ただ、手元にIPAが無かったので、類似する薬品で試してみました。
ウェットティッシュで拭いてみた
まずは手軽にアルコールタイプのウェットティッシュで拭いてみることにしました。

こちらはダイソーで100円のウェットティッシュ(アルコールタイプ)です。
コスパは最高ですから、これで片が付くなら有り難い!ということで、そのまま表面を拭いてみました。
しかし、何も変化は無く、ヒゲも排除できませんでした。
次に、一晩包んでから吹いてみることにしました。

こちらの通りの包み方であれば、一晩ウェットなアルコールまみれの状態が保つことができました。
その後、取り出してウェットティッシュで表面を拭いてみた結果がこちらです。

こちらは前述のパターンBの円筒の表面でヒゲだらけの状態でした。
しかし、ご覧の通りにヒゲを排除して、表面に若干ツヤを出すことに成功しました。
積層感はあまり変わりませんが、これでも個人使いなら十分な品質です。
除光液に浸けてみた
もっとテカらせたい!ということで、除光液に浸けてみることにしました。
余っていたジャムの瓶に除光液を満たして、その中へ印刷物を投入しました。

この方法で、まずは一晩浸けてみました。その結果がコチラ。

ご覧の通り、積層感が完全に消えてテカテカに光るほど表面処理ができました。
ただ、ブヨブヨになってしまい、軽く触っても変形する状態になりました。
この後、3日経過くらい経過しないと使い物になりませんでした。
つまり、長時間浸けすぎたのです。これは失敗。
なお、誤ってノズル掃除に使った除光液を使ってしまったので、汚れまで吸収してしまっているのは見逃してください。
次に、約10分ほど除光液に浸けた結果はこちらです。

表面がツルツルになり、積層感も少し消えています。
これくらいが十分な表面処理と言えそうな状態でした。
ちなみに、20分、30分と時間を変えて試してみました。その結果分かったことは、
- 浸ける時間が延びれば、表面がよりツルツルピカピカになる
- 反面、浸ける時間が延びれば柔らかくなる度合いも高くなり、原型を留めにくくなる
- 柔らかくなったモデルは周りに固着しやすくなる
- 浸ける時間が延びれば、元通り固くなるのに時間がかかる
最後の特性については、10分浸けたモデルで半日、20分浸けたモデルで丸一日、30分浸けたモデルでは二日くらいで元通り固くなるようでした。
このことから、キレイに表面処理をしようとすればするほど、原型を留めて実用できる状態にするには時間がかかって難しいことが分かりました。
これはPVBフィラメントだけの特性ではありません。
しかし、PVBフィラメントはよりアルコールに溶けやすい性質のために顕著に影響を受けやすいということが分かりました。
今後は、気化させた除光液に加え、IPAを使ってみて、表面処理がどのように変わるのかも試してみたいと考えています。
PVBフィラメントはいいぞ!
PVBフィラメントについて、試してみて分かったポイントは以下の点でした。
- PLAに近い印刷特性のため、設定がほとんど流用できる。ただし、185℃でキレイな印刷結果を取るか、200℃以上の高音でレイヤー間の接着性を取るかを考える必要がある。
- 弾力性(引張強度)はPLAよりは強く、ABS/PETGよりも弱い。
- 負荷(強い力)がかかるところの印刷には使ってはいけない。
- 表面処理はアルコールで簡単にできる。その仕上がりの品質はアルコールに浸ける時間の長さに比例するが、原型の保持しやすさは反比例する。
この結果に加え、日本でPVBフィラメントを個人で手に入れるならほぼ下記一択という点も付け加えておきます。

非常に面白くて使いやすい素材なので、どんどん使って更に特性を生かした使い道を編み出していきたいと考えています。
この記事が3Dプリンタ印刷を愛する3Dプリンタユーザーのうち、1人にでもお役に立てば幸いです。

ITエンジニア歴18年の3Dプリンタブロガー。
3Dプリンタで作った物をSNS投稿するのが趣味。自らが便利だなと感じたことは、誰かにシェアせずにはいられない性格。このサイトに掲載した情報が少しでもお役に立てば幸い。 ええ(English OK)